「お前の髪の毛、かなり白髪がまざっているなあ」
「そろそろ、染めないのか。黒く染めた方が若く見えていいぞ」
「そ、そうですが、僕にもポリシーがありまして」
僕の髪の毛は、20代のころから白髪がちらほら混ざりはじめ、アラサー頃から目立ち始め、アラフォーになると、結構白髪アルネ、と人に言われるほどになった。
母親も結構白髪が目立っていた。70台後半の父親は、黒髪を発見するのが難しほど、真っ白の髪の毛だ。
言えてることは、禿にならないが白髪になる家系である。
僕も若いころから白髪が混ざっていたのは、その遺伝のせいであった。
父親は、僕よりも白髪が多くて、30才代の後半にはすでに白髪染めをしていた。
手袋をはめ、髪の毛に変なにおいのする液体をつけて染めている姿を
子供の頃から何度も目撃していた。
きっと、将来僕も同じようになるのかあ、めんどうだなあ。でも、髪の毛があるだけいいか
と思っていた。
何とか、外見上のみ黒髪を保っていた父親ではあったが、40才台後半を過ぎてからは、仮面を脱ぐようになった。
毛染め液が肌に合わなくなったか、毛染めをすると皮膚が赤く炎症を起こすようになったのだ。
父親は思い切って毛染めをするのを止めたのだ。
僕は日に日に変わっていく、父親の頭を見て驚愕した。家の生え際から、白色の領域がどんどん上がっていった。
真っ白じゃないか、こんなに白かったのか。
恐らく、会社でも、その変化に、その髪の毛の白さに驚かれているのだろう。同僚や上司からもいろいろ言われているのだろう。
一気に老けた感じがして嫌だし、恥ずかしいし、みじめさを感じてしまうな。
父親の変化を見て、僕のポリシーは出来上がった。
年を取って髪の毛が白くなるのは、自然の理にかなっている。
その程度が人によって違うだけだ。
髪の毛を染めるのはやめよう。ナチュラルな自然のままの色が一番だ。
僕自身オーガニックでいこう。
僕は40代に突入した時には、父親は黒髪が見当たらないほど白髪であった。僕の髪の毛も、ちょっと気にするほどの色になってきた。
僕は会社と家を往復するだけだし、仕事は事務所にこもっているだけで
人と会って人に見られる仕事でもないので、どんな格好でも気にしないさ。
ちょっと頑固者の僕は、自分のポリシーを貫いてこそ、生きがいがあるんだと変なプライドを持ちつづけていた。
ところが、僕は事務所にこもる仕事から営業に異動となり、毎日客先に出かけて、人に会うことが仕事になってしまったのである。
「40代後半ですか?」
えっ、何を言ってるんだ、この人は。ちょっと失礼じゃないか
僕は怒りというより、ショックを受けた。僕は若いつもりでいたけど、そんなに老け込んで見えるのか。
これではどうだ。僕は頭を隠して、顔だけ見せた。
「お若く見えますね」
そうだろう、そうだろう。
しかし、内心はとても複雑だった。
頭を隠して顔だけ見ると30代
頭と顔の両方を見ると40後半
このギャップは何なんだ。
どちらに合わせたらいいんだ。
30代か、それとも40代後半か。
老けて見られるのは論外だ
僕のポリシーが一瞬、ぐらりと揺らいだ。
そんなバカな、僕がポリシーに反して髪の毛を染めるなんて、あり得ないだろう。でも、どうやってギャップを埋めればいいのだろう。
しばらくして、僕は問題を解決していた。
「お若く見えますね。実年齢より10才くらい若く見えるんじゃないですか?」
えっ、本当ですか? そう言われると、心も若返っちゃいますよ。
僕はポリシーと黒髪を天秤にかけた。長年持ち続けたポリシーの重みよりも、黒髪になって若く見られる方が重かったのだ。
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