こんにちは。たなかあきらです。
「僕は人生を変えたい。全く変えて、ゼロからやってみたい」
そう思う人も多いだろう。当時の僕は、自分の人生を変えたい、今の生活から抜け出したいと、強く思っていた。
会社での仕事にも行き詰まりが見られ始め、思ったような結果を出せずに、僕は焦っていた。上司から些細なことを言われても、その言葉がすべて僕を非難しているように聞こえた。プライベートでもうまく入っていなかった。
精神的にかなり参っていた。僕は、いわゆる、うつ病になっていたようだ。人と話すことも、うまく出来ないような状況にまでなっていた。
「今の自分にあるしがらみを取り去って、環境も払しょくして、別の地でこれまでの自分とは全く違う生き方をしてみたい」
藁をつかんで引っ張ると、どこか1日でも違うところにでも行けるだろうか。本当に藁をもつかみたい気持であった。僕は、思いがけなく飛び立つことが出来た。
精神的に参っている僕は、とぼとぼと荷物を準備した。持っていくものも、とても少ない。ゆっくりと家を出て電車に乗り、静かに空港に向かった。
空港に到着するとカウンターへ直行した。パスポートを取り出し、チケットを受け取り、出国ゲートに入っていった。
僕は事実上、日本を脱出した。少しづつ、僕の心は、柔らかくなり、明るさが出てきた感じがした。
搭乗時刻になり、僕はKLMオランダ航空の飛行機に乗り込んだ。そして、飛行機はほぼ定刻に離陸した。
安定飛行に入り、僕はワインを頼んだ。お代わりをした。ひょっとしたら、僕はずっと飲んでいたかもしれない。
どんどん、これまでの自分から離れて、違う自分になっていく気がした。
飛行機は無事にアムステルダムに着いた。見たことのない風景、嗅いだことのない異国のにおい、行き交う人の雰囲気も全く違う。間違いなく、確実に僕は日本から遠く離れ、日本にいたときの自分は、もう過去の自分になった。
アムステルダム空港で、しばらくフラフラした後、僕は別の飛行機に乗り込んだ。目的地への最後のフライトだ。
飛行機は離陸し、ヨーロッパ大陸から飛び立った。数時間後、飛行機はある国際空港に降り立った。日本を出てから、20時間以上の長いフライトであった。
その国際空港とは名ばかりと思うほど、飛行機も人も殆どいない閑散とした田舎空港であった。
僕は、飛行機をトントンと降りて、入国審査を難なく終え、荷物をさっさと受け取り、到着ロビーへ急ぎ足で向かった。
「オー、ハーイ。ナイス・トゥー・ミーチュー・アゲイン。ナイス・フライト? アー・ユー・オーケイ?」
ニコニコした、白髪の紳士が僕を見つけてやってきて、僕たちは固く握手をした。大きな手だった。たまたま来日されていた時に、初めて会った時以来、半年ぶりの再会だった。
白髪の大学教授は、はじめてこの地を訪れる僕を気遣い、親切なことに空港でピックアップして、宿泊先までわざわざ送ってくれるのだ。
「ファイン。サンキュー・ベリー・マッチ」
僕は大学教授の車に乗り込み、車は緑しか見えない田舎道をぐんぐん走った。窓を開けると、これまで感じたことのない様な、心地よい風が入ってきた。
こんな緑がきれいに見えるなんて。こんな風が美味しく感じるなんて。僕の胸はワクワク感で、びっくりするほど膨れ上がった。気持ちが抑えきれず、外に向かって大声で叫びたい気分だった。
僕はとてもラッキーだった。ラッキーにも会社から、ウェールズの大学教授のもとで一年間、勉強させてもらえる機会を得たのであった。僕は、過去の自分を全く忘れ、これまでとは違う自分として、スタートをすることが出来たのだ。
「僕は人生を変えたい。全く変えて、ゼロからやってみたい」
本当に僕を変えてくれた場所、ウェールズ。住んでいる人々も、自然も、文化も、歴史も素晴らしい国であった。
日本にいたときは、まったく知らない国、異国ウェールズ。多くを訪れ、見て、聞いて、会って、多くの事を学ぶことが出来た。住むことにより、ウェールズは僕の中にどんどん入って来て僕は変わり、ウェールズの存在は僕の一部となった。とても楽しい、僕の人生の中では、かけがえのない1年であった。
日本に帰ってからも、ウェールズで得た経験をもとに、僕は変化をし続けている。これからもウェールズは、僕に多くのことを教えてくれることになるだろう。
僕の、もう1度でも、2度でも、1年でも10年でも、行きたい場所はウェールズである。
最後まで読んでくださり有難うございました。