世の中、残念なことが起こるし、それを補うかの如く良い事も起きる。長い目で見ると、どうやらプラスマイナスがゼロに近づくようである。ちょっとだけ、プラス側に偏ると、とてもうれしい気がするのである。
空港から出発
僕は台北松山空港行きのボーディングを待つ間、ラウンジでコーヒーを飲みながら、ゆっくり休もうと思った。
ラウンジは空港の眺めが良く、ゆったりとコーヒーやジュースなどが無料でいただける。ホテルラウンジにいるような高級感に浸れる。
しかし、僕が持っているクレジットカードで、どのラウンジが使えるか、忘れてしまった。荷物を引きずり思い出しながら、ウロウロと探したが結局分からず、とても残念な思いをした。
今回は、事前に調べておいたのですんなりとラウンジに入れ、ソファーに座った。ゆっくりと、コーヒーを楽しもうか。くつろぐ事ができる筈だった。
ブルブルブル。
直前にスマホが震えた。
上司からの電話だった。
「空港のラウンジで待っている間、書類を作ってくれないか」
上司は、僕の行動をお見通しであった。残念。
仕事を搭乗時刻までに、なんとか済ませ、コーヒーもろくに飲めないまま搭乗口へと急ぎ、飛行機に乗り込んだ。
座席に座った時、前回飛行機に乗った時の、残念で腹立たしい記憶が蘇った。
残念な思いで
羽田空港から台北松山空港への飛行時間は、4時間弱である。この時間を利用して、必ず映画を一本観るのである。アヴェンジャーズ、美女と野獣、シング、などを観てきた。
今回はどんな映画が飛行機で見れるだろうか。それが飛行機内での楽しみである。
しかし、しかしだ。座席に座ったら、画面がないではないか。座席の前に、自分でコントロールする画面がないではないか。
僕の座席は、非常口付近になってしまい、飛行ルートのみ映し出される共通スクリーンしか見る事ができなかった。オーマイゴッド、なんてこったい。
映画が観れないなんて、残念で仕方がない。旅行会社に確認しておくべきだった。僕は寝るしかなかった。
残念な記憶がよみがえり、旅行会社に席を確認するのも忘れていた。
まさか今回も同じ席じゃないだろうか?
悪い+良い=
今回は、辛うじて画面が無い席の一つ後ろであった。僕はほっと胸を撫で下ろし席に座り、ゆったりと映画を観る準備を始めた。
靴を脱いで、持参のスリッパに履き替える。フライトアテンダントから毛布をもらい膝にかける。イヤフォンを取り出して、プラグに差し込み、装着する。そして、画面を切り替えながら、映画を探すのだ。どんな映画があるのか、この瞬間も楽しいのである。
ラ・ラ・ランド、美女と野獣、既に観た映画もある。スパイダーマン、ワンダーウーマンもあった。
何も観ていない映画だ。よし、行きはスパイダーマン、帰りにワンダーウーマンを観よう。
ガタっ、ガタッ
急に画面が、グイグイと近づいてきた。
どうしたんだ。何が起こったのだ。
前の人が思い切り、座席を後ろに倒してきたのだ。膝が椅子に当たるりめり込むほどで、僕の座るスペースは、めちゃ狭くなってしまった。動きが取れず心地が悪い。
さらに残念なことに、画面の角度も傾いて悪くなりよく見えなくなってしまった。
なんてこったい。こんなんじゃ、また映画が観れないよ。それに、体制が苦しく不快な空の旅だよ。何とかしてくれ。
その時、食事が運ばれてきた。僕の好きなカレーであった。しかし、座席のテーブルを引き出すスペースはない。最悪のシナリオか。
「お客さま。申し訳ありませんが、座席を元の位置に戻していただけませんか」
フライトアテンダントの声に、前に座っている客は、渋々倒した席を元に戻した。僕の膝は解放され、画面は元の角度に戻り、テーブルを引き出せた。
もう、前の客は座席を倒すことはなかった。
「よかった〜、助かった〜」
僕は好きなカレーを食べ、スパイダーマンを最後まで楽しんだ。
残念なことが多く起こりかけたが、最終的には良いフライトであった。