これは美味い、本場台湾の料理
僕は客先との打ち合わせを終え、自動車の右側の席に乗り込んだ。数件の客先を周り、通訳はいるものの全く理解できない中国語の中にいて、体も脳みそもぐったりとしていた。
時刻は夕方に近づき、黄色いタクシー、マスクをしてスクーターに乗った人々が目立ち始めていた。
「今晩は、何が食べたい?」
運転席のRさんがたずねた。Rさんは台湾人の商社マンで、僕の会社とパートナーを組んで台湾市場に売り込みをかけていた。
「そうですねえ。やはり台湾の料理がいいですね」
Rさんと一緒に仕事をするようになり、6年になる。その間、僕は20回以上台湾に来ている。最近では頻度を増やし、2ヶ月に一度ほどだ。さぞかし、台湾通になったのでは?と思われるかも知れないが、一度でも台湾旅行に行ったことがある人よりも、台湾についての知識は足りないかも知れない。
残念ながら、仕事中心で観光に行ったことが無いのだ。台北の超高層ビルでスポットの一つである101でさえ、近くでチラッと眺めただけである。それ以外は、観光は全くの皆無で、諦めている僕は、観光ガイドすら見た事がない。
食事以外はホテルと客先の往復しかしておらず、日本国内の出張と大して変わらないような、過ごし方をしている。
だけど残念には思わない。日本の観光ガイドにも載っていない、台湾人が思うこれぞ台湾、という所にRさんは連れて行ってくれるのだ。
台北に行くと、多くの日本人に出会う。ホテルでも日本語はある程度通じるし、レストランのメニューも日本語の併記がよく見られる。
日本のガイドブックに載っているようなレストランは日本人があふれ、Rさんと店員を除き、お客さんは全て日本人で、本当に台北にいるのか分からない、と言う経験もある。
そのためか、Rさんは台湾人ばかりの台湾料理のレストランに連れて行ってくれる。そして、いつも美味しい発見と、体験を堪能しているのだ。
まぜそばみたいな、意麺
今回、台湾料理のレストランには二箇所、連れて行ってもらった。
まずは台西蚵𤎖と言うレストランで、台北の郊外、新北市にあり、お客さんと昼食を共にした。台湾では、日本以上にビジネスには食事が大切なのだ。
「ここでは、何がオススメですか。僕は台湾ならではの麺が食べたいです」
「それなら、意麺だよ。湯麺(スープあり)と乾麺(スープなし)があるこど、乾麺が絶対オススメ」
とお客さんにすすめられた。それならば、と思い。意麺の乾麺を頼むことにした。
「意麺の乾麺を五つ!」
一緒にいた5人は全員同じ麺を注文した。これは期待できそうだ。
目の前に、待望の意麺が運ばれて来た。じーっと見ていたら、何かに似ている。日本で食べた事がある、最近流行りの麺だ。
スープのない細麺の上に、ニラ、ひき肉、もやし、ネギが乗っていて、まぜわせて食べるのだ。
僕は、日本で食べる「台湾まぜそば」とそっくりだと思った。
やはりここは台湾だけあって、メイドインジャパンの台湾まぜそばと、味は大きく異なる。日本の台湾まぜそばは、とてもボリューミーでとても辛いのが特徴だ。それに対して、台湾の意麺は、全く辛くなくあっさりしていてとても食べやすい優しい味だ。
これはいける!
辛いのが好きな人は、好みに合わせて、豆板醤のような薬味などを入れて、楽しむこともできる。
「どう、美味しい?」
「ゴウさんRさん、意麺は美味しいです。とても気に入りました。また、食べたいです」
ひょっとすると意麺は、日本の台湾まぜそばの原形かもしれない。見た目も食べ方も似ている。だけど味は似て非なるもので、僕は意麺の方が食べやすくて好きだし、多くの日本人にも受け入れられると感じた。
意麺に出会って良かったと思う。
限定料理、薑母鴨
午後の仕事を終え、意麺の余韻が消えない内に、晩御飯の時刻が近づいてきた。今度は、Rさんが薑母鴨(ジャンムーヤー)と呼ばれるスペシャルな鍋料理を食べに、◯味食補と言う台北市内のレストランに連れて行ってくれた。
薑母鴨はjinger duckと訳され、生姜と鴨の鍋である。おでんに似た感じもする。この鍋は台湾でも季節限定でスペシャル感があるのか、訪れたレストランは台湾人で列ができ、店内はごった返していた。
薑母鴨は季節限定で、冬の間の何ヶ月しかレストランも営業していないそうだ。
鴨肉、豆腐、トウモロコシ、カリフラワー、ごぼう、肉団子、えのき、キャベツ、生姜が入った鍋を、炭火で煮るのだ。
醤油ベースに唐辛子を入れたソースにつけていただくのだ。 たっぷりの野菜がとてもヘルシーで、生姜と鴨肉はとても美味しくカラダもあたたまる。
この薑母鴨も、冬の台湾に行くなら、是非食べたい逸品だと思った。